どうも、日本は元気がないようです。たかだか四年前が嘘のようです。「土地だ!! 株だ!! ブランド品だ!!」と騒いでいたのは、どこのどなた様でしたか。
当時は求人しても、人が集まらなかったし、土地の値段も天井知らずに上がっていました。また、歯科医療などは3Kの一つと言われていました。そして円高は70円台に迫る勢いでありました。それが瞬く間に、就職難、リストラ、金融不安だと、180度変わってしまいました。 政治もどうなっているのかさっぱり判りません。おまけにオウムの事件は、治安の問題だけでなく現代社会の疎外された若者達が行き場のない不安に陥っていることを象徴する事件でした。ジャパンアズ・ナンバーワンと言われて順風満帆の日本のシステムも、今しべての分野でその在り方が問われているようです。
新聞に、某アジアの商社マンが「日本は他のアジア諸国に比べ、活気がなくなっている」と述べていました。確かに、自分自身をとってみても、医院の収入は減っているし、若い歯科医師がドンドン出てきて、将来の展望が開けないように感じます。日本全体も自信を失っているように見えます。
しかし、否定論で物を考えることは危険です。子供の教育でも、あれはダメ!これはダメと小言を言っていたのでは子供は伸びません。むしろ、長所を認めて誉めることが肝腎であるとは良く言われていることです。
私の子供時代(四十年前)は皆、貧しかった。親爺が歯科医師だったけれど、夜中まで技工したり、患者さんを診ていました。日曜日も遊んでもらった覚えはありません。歯科医師に限らず、誰もがそうだったし、皆一生懸命生きていたように思います。それに比べ、現代は本当に豊かになりました。つまり、日本はそれなりに進歩してきたのです。
ところで、物事を習ったり、歴史を俯瞰すると流れがあります。
初めは急速に進展するが、ある段階に達すると、少しずつしか進むことができなくなるのです。つまり成熟期に入ると、進みは遅くなるのです。現在の日本が正にそうです。ですから不況や混乱を、ことさら嘆く必要もないのです。むしろ次の段階に行く、ステップと考えれば良いのだと思います。
日本が戦後立ち上がった原点は「機会の均等」「貯蓄」「自立精神」などの倫理観で支えられていました。もう一度、日本の良い所を再確認するとともに、新しい社会をつくる意欲が必要と思います。我々の従事している医療も本当に今まで、国民の為の医療であったか?これからの医療は、どうあるべきか?市民の目の高さから議論する時期だと考えます。国や医系団体が密室で決定し、上意下達をする現代の医療システムであったからこそ、HIVの悲劇を引き起こしたのです。市民に開かれた医療制度をつくらなければ、同じ様なことがまた起こるに違いありません。
歯科医師に限ると、ウ蝕はすべての疾患の最高の罹患率です。いかにして予防するのか?8020を実際に達成するにはどうすべきか?学校歯科健診で指摘された不正咬合をいかにして治療していくか?在宅歯科医療の問題点をいかに克服するのか、課題は沢山あります。また、歯科医師過剰は、もちろん考えねばならないことです。でもこれからの世界に目を向けてグローバルな時代を考える時、歯科医師は余るどころか、足らないはずです。若い歯科医師には焦ることなく、勉強して欲しいと思います。
21世紀に向かって夢を持って微笑を忘れず、元気を出していきましょう。
(1996年4月10日発行 長崎保険医新聞 掲載)
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